崎陽軒のシウマイ弁当
その日、横浜駅のホームはいつも以上に賑わっていた。旅行者も地元の人も、どこか足早に行き交う中で、一つの包みが売店の棚に並んでいるのがふと目に止まる。 「シウマイ弁当」。不思議な温もりを漂わせる無骨な紙の包みを、彼の手が伸びた。 崎陽軒のシウマイ弁当は、ただの駅弁ではない。それは、横浜という港町の歴史と共に歩んできた、無言の語り手だ。昭和29年に誕生し、それ以来、何十年にもわたり、多くの人々の旅に寄り添ってきた。ホタテ貝柱と豚肉を練り込んだシウマイは、冷めてもその美味しさを失わない。たった3センチほどの大きさだが、その中には職人の技と心が詰まっている。 彼は大阪行きの新幹線に乗り込み出発を待った。そして電車が走り出すと同時、包みを静かに開けた。シウマイ5個が整然と並ぶ姿に、ふと昔の旅を思い出す。旅の疲れも、この弁当を口にするたびに癒された。俵型のご飯、厚焼き卵、そして甘く煮られた杏。どれもが、横浜の海風を感じさせる一品だ。 彼はまず、シウマイに箸を伸ばした。噛むたびに、ふわっと広がるホタテの風味と豚肉の旨味。それは、列車の振動を感じながらでも、どこか安心感をもたらす味だったことが思いだれた。ご飯との相性も抜群で、少し硬めに蒸された粒が一粒一粒しっかりと舌に伝わる。 シウマイ弁当は、ただの食べ物ではない。旅人たちが出会いと別れを繰り返すこの場所で、彼らの思い出をそっと見守っている。 彼はもう一度、シウマイを口に運び、微笑んだ。 |